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需要が高まる米粉の生産拡大を目指す「米粉用米生産拡大検討会」が開催。 米生産者と考える米粉用米の生産メリットと課題。

2025.11.04

需要が高まる米粉の生産拡大を目指す「米粉用米生産拡大検討会」が開催。 米生産者と考える米粉用米の生産メリットと課題。

米·米粉消費拡大対策事業の一環として2025年9月中旬に「米粉用米生産拡大検討会」が開催されました。参加した米生産者約20名に、米粉の需要が高まっている現状と米粉用米の市場動向、消費者の動向などを提供し、生産者のみなさんの理解を深めるために実施された本会。米粉市場の現状と課題を共有し生産者たちの意見をヒアリングすることで、米粉の原料供給安定化の糸口を探ります。
 

検討会の進行は、循環型農福連携ファーム・AGRIKO FARM等を運営する株式会社AGRIKO(アグリコ)。代表の小林涼子さんは、俳優業のかたわら、2014年から新潟県・名立(なだち)地区で稲作を手伝い、さらには農林水産省「農福連携技術支援者」を取得するなどさまざまな形で農業に携わっています。

「父の友人のもとで稲作を手伝うようになってから、お米を作る大変さやおいしさに感動して、どんどん農業が好きになりました。今日は米粉用米の生産が追いついていない現状を打開するために何かできることはないか、という思いでここに立っています」と、検討会開催にあたっての思いを語りました。

会場となった新潟県上越市の名立地区は、日本海に面した自然豊かな地域。上越市の西部に位置し、米の名産地として知られています。今回はそんな同地区の米生産者のみなさん約20名が参加。米粉の基礎知識を周知するとともに、需要が高まっている米粉の現状や米粉用米の市場動向を踏まえた今後の可能性について生産者のみなさんの理解を深めます。
 


そもそも米粉は、うるち米やもち米を製粉した食品原料。うるち米からは上新粉やパン用の米粉、もち米からは白玉粉ともち粉が作られます。

「近年の米粉ブームによって米粉が注目されるようになったと感じますが、日本においては白玉や、すあまなどの和菓子を筆頭に、昔から身近なもの。いま注目されはじめた背景には、製粉技術が劇的に発達したことがあるんです。昔とは違った細かくサラサラとした米粉が作れるようになったことで、小麦粉の代用としても活用できるようになり、パンやケーキ、麺類などより幅広い食品の原料として使えるようになりました。麺用やパン用など、いろんな種類の米粉が作られているんですよ」と小林さん。

さらに米粉が注目されるようになった理由として、国産志向やグルテンフリーなど健康志向の高まり、そして契約生産による安定収入が期待できることを挙げました。

「主食用米は、人口減により年間でおおよそ8万トンの需要が減少しています。お米の生産が少なくなると水田が維持できなくなる問題も出てくるため、生産者さん視点では、様々な選択肢を検討する中で米粉が注目されているというのがあります。グルテンフリーに関しては、小麦アレルギーの方はもちろん、健康意欲の高まりによっても市場が伸びていますね。そして生産者さんに一番身近なことで言えば、主食用米と同等の所得が得られる可能性。加工業者さんと契約することによって、安定的に収入を得られるということも考えられるんです。とはいえ主食用米の高騰などを背景に、生産者さんの米粉に対する興味関心が低下している現実も感じています。そうした課題を解決するためには、原料の供給安定化と市場の成長が必要。そこに繋がればと思い、今回3つの取り組みを計画しました」と話します。

「取り組みの第一弾は、この検討会。2つ目は、製粉業者さんの工場見学を通して、生産者のみなさんに米が米粉になっていく過程を見学いただくこと。そして3つ目は、その米粉がどのように商品になっていくかを知っていただくために、サンマルクホールディングスさんのご協力のもとで、名立の米粉を使ったピンサを商品化することになりました。古代ローマで生まれたとされるピンサは、小麦粉と米粉、大豆粉を合わせたピザに似た平らなパンです。小麦粉だけで作るピザよりも腹持ちがよく、大豆からタンパク質が取れるため栄養面でも優れてるといわれています。お米から作られた粉がピザになるというちょっと不思議な体験になると思いますが、みなさんにも3つの取り組みを通して、米粉をより身近に感じていただきながら理解を深めていただけたら嬉しいです」と、参加者へ呼びかけます。
 


「新潟県の米粉用米生産量は、長らく日本一をキープしています。とはいえ全国的には平成23年度に4万トンあった米粉の生産量は24年度から減少に転じ、令和6年には3万3000トンまで下がる見込み。一方で令和6年の需要は6万4000トンまで伸びる予定です。なぜここまで米粉製品需要が広がっているかといえば、消費者の幅が広いということが挙げられます。小麦アレルギーを持っている方、健康・美容意識の高い方、そして食に関心のあるシニア層のみなさん。実は米粉って、小麦よりも消化がよくお米を使っているという安心感から、シニア層にも受け入れられているんですよね。なので年齢や性別に関係なく支持を得ています」(アグリコ大沼さん)。

米粉を生活に取り入れるメリットとして「栄養価が高く、さらに血糖値も上がりにくいこと、ダマになりにくく料理に使いやすいうえ、油の吸収率が少ないため揚げ物もカラッとヘルシーに仕上がります。そして小麦アレルギーの人も米粉のパンや焼き菓子は食べられるのも大きな利点。日常におけるさまざまな側面をカバーしてくれる魅力があります。くわえて人間の体内で作ることのできない9種類のアミノ酸をどのくらい含んでいるかを示す、『アミノ酸スコア』が高いというのも米粉のメリット。100点満点を基準にするなら、お米は約65点、小麦は40点ほどなんです」とアグリコの中川さんは続けます。

そして生産者のみなさんが気になっていたであろう米粉用米の品種については「米粉には、料理やお菓子に適した品種、パンと麺それぞれに適した品種があります」と中川さん。

「その違いはお米に含まれるでんぷんの一種、アミロースの値。この値が少ないほど、粘りが強くもちもちとした食感に仕上がります。具体的な品種で言えば、アミロース値が低い『ミルキークイーン』は料理やお菓子、中くらいの『こなだもん』、『ほしのこ』などはパンに適しており、アミロース値が高い『ふくのこ』や『越のかおり』は麺と相性がいいんです」と話します。
 


「米粉で作られる食品のなかでも、身近なのがパン。都内では、米粉パンの専門店も増加しているんですよ」と大沼さんは続けます。「ここ数年で新規オープンの専門店が増加したことにくわえて、ベーカリーチェーンや大手スーパーマーケットにもいまや当たり前に米粉パンがあります」(大沼さん)。

パンをはじめ、多彩な食品に使える米粉。その魅力を知ってもらうべく、 “米粉の聖地”と呼ばれている大阪府八尾市の「オーガニック&米粉ナーレ」を筆頭に、今年13回目を迎えた新潟県胎内市の「米粉フェスタinたいない」、東京都「米粉知新キャンペーン」など、各地域でもさまざまな取り組みがなされています。くわえて2025年11月1日から30日まで全国で開催する「日本各地の米粉グルメを楽しむ!全国おでかけグルメフェア」では冒頭で紹介した3つの取り組みの一つである、サンマルクホールディングスとコラボした米粉のピンサも登場予定。

検討会に参加したサンマルクホールディングス取締役の飯田さんは、サンマルクの各店舗でも米粉パンの要望があると教えてくれました。

「小麦アレルギーのお客さまからご要望をいただくことが多いですが、まだすべてのご要望にお応えできていないのが現状です。なので私どものような飲食店が積極的に米粉を使った商品を提供することで、米粉の使用量が増え、結果的に生産量が増えて物流のコストダウンにもつながるのではないでしょうか。我々としても実際に、これから米粉を使った商品も提供していきたいと考えています。よりいろんな種類の米粉商品を提供することでお客さまの選択肢が増えて喜んでいただけたら」と、飲食店が米粉を取り入れることによる生産量の増加を期待します。
 


最後に小林さんが「私たちは、生産者のみなさんが米粉用米を作ることや米粉を販売することに関心を持てない理由を探しているんです。生産者のみなさんのお話を聞く機会もあまりないですから、理由を聞かせていただけたら」と、参加者に呼びかけます。

生産者のみなさんからは、「これまでに需要があると知らなかったから」「主食用米を出荷するほうが収益性が高いのではないか」「身近に売り先がないので、売れる確証がないことが大きい。生産計画を立てられるように販路のベースができれば」「まとめて卸すことができる大手の飲食店さんとのやり取りが実現してほしい」といった意見が。

さらに「食用米のように『誰々さんのお米』『魚沼産コシヒカリ』といった特徴が出せないので、そうした部分も補強されればやりがいを感じます」といった声も聞かれました。

こうした声を聞き、「今回サンマルクさんと作る米粉のピンサは、ここ名立のお米で作った米粉という点もアピールしていく予定なので、そういった形で少しでも名立のおいしさを広めていければ」と小林さん。

「みなさんのお話を聞いてようやく腑に落ちたところがあります。補助金やサポートがあればいいというわけではなく、売り先だったり、この土地だからできるといった目に見える商品化が必要という視点は、まさにサンマルクさんとの取り組みの背景にある私たちの考えと共通していて。みなさんと同じ気持ちだったと感じられて嬉しいですし、元気が出ました。少しでも『やってよかった』と思っていただけるよう、第二弾、第三弾も進めていきます」と会を締めた。

終了後、参加者のみなさんに米粉の印象や心境の変化を聞くと「参加前はあまり関心がありませんでしたが、興味が湧きました」「米粉の需要がここまで高いことに驚き」「米粉がいろいろな家庭料理に使えること、多彩な食品に使われていることを知りました」「名立ブランドの米粉ができたらいいなと思う」「思いのほか米粉には可能性があんですね」といったポジティブな声が多かった一方で「生産にあたっては問題点の研究と検討が必要」「生産しやすい品種であればよいと思う」など、生産者視点の課題も浮き彫りになりました。

生産者たちのリアルな声も聞くことができた「米粉用米生産拡大検討会」では、米粉の生産拡大への課題と希望が見えてきました。